7年程前に当社で建てて頂いたお施主様のご紹介でご縁を持ちました。当初は「耐震診断→必要箇所を耐震補強」という流れの予定でしたが、築90年となる家屋は、大事にメンテナンスされてはいながらも、基礎が弱く、一から造り直さないと現代の耐震基準には及ばず、という状態でした。
家屋を持ち上げて、基礎を造り直す補強工事も検討されましたが、莫大な補強費用も懸念され、「それならば建て替えて、新築した方が…」、となりますが、ご祖母様が嫁いでから、大事に大事に、磨き、住まわれた‘趣き深く、経年美を感じる家屋’。「全く新しい建物が建つのも寂しい…」というのは、次の世代を担うお子様ご夫婦の想い。
ご祖母様・そのお子様ご夫婦、それぞれの‘想い’を取り込みながら、古き良きモノを現代の建物基準を考慮しての再生建築がスタートしたのでした。
築90年とは言え、昔のほとんどの日本家屋同様に、‘本物素材’を用いて建てられ、ご祖母様によって、大事に磨かれてきたメンテナンスの行き届いた家。再利用可能なモノ、不可能なモノを分け、「柱は玄関かまちに」「建具は祖母寝室に」など、再利用計画を中心に、建て替え計画はスタートしました。
立地は、京浜急行の駅から数十秒。電車はもちろん、車の交通量も多く、大型車の往来もあり、長年付き合ってきた「騒音」「揺れ」対策も家づくりの骨格となり、それらの問題に負けない、頑丈な基礎。そして、近隣とは切り離された、プライベートな居住空間をつくる事が求められました。
旧家屋同様に、内装材は全て天然素材で計画。壁は「珪藻土」、天井は「杉板の無垢材」、床は「パイン無垢材」、キッチン
扉も「パイン無垢」、家具も「大工さんの造作」、建具も「建具職人の造作」と既製品が一切ない家となり、 「目に見える」「手に触れる」部分は全て天然の本物素材にこだわってます。
外面は、防火指定の地域ながら、‘燃えしろ’を設ける事で、合法的に「軒天」を木材で仕上げ、あらわしの「木(もく)」の素材感が実現されました。
旧家屋への‘想い’を‘カタチ’として取り込みながら、ご家族のこれからも考えており、古き良きモノを再生しながらも、「間取り」「動線計画」は一新、床暖房も完備されました。
現代の建物基準・生活に充分に対応し得る、機能的ながら、旧家屋同様、美しく年を重ねる事が愉しみで、永きに渡り、連れ添う事の出来る「家屋」がここに再生されました。